PBISと修復的正義

PBISとは

アメリカを中心に進められている「ポジティブな行動介入と支援」を用いた包括的生徒指導アプローチのこと。

 

行動分析学を理論的背景としている。

(行動は交点的に獲得したり変化させたりすることができる)

子どもたちに対して積極的な働きかけを行ったり環境を整備したりすることを通して、適応的行動の増加や問題行動の減少を図る。

 

望ましい行動の獲得や定着を促す取り組み

アメリカ・シカゴ市のフランクCホワイトリー小学校の実践例(2013)から

①目的とアプローチの共有

まず取り組みの目的とアプローチの仕方を全ての教員が共有する。

この取り組みで子どもたちに届けなければならない最も大切なメッセージは「自分は何をしたのか、どんな悪いことをしたのか」ではなく、「どういうことをしなければならないのか」である。

ある状況において自他にとって望ましい行動とは何かに気づかせ、それらを獲得・定着させていくことがこの取り組みの目的となる。

②望ましい行動の明確化

子どもたちには、学校の主要な場所においての期待される望ましい行動が、

思いやる、責任を持つ、安全を保つの3つの観点に沿って具体的な行動レベルで示される。

・Be Respectfull

 思いやりのある言葉で穏やかに話す、全身で相手の話を聴く、ものを大切に扱う

・Be Responsible

 最大限の努力をする、期限までに宿題を仕上げる、自分の身の回りをきれいに保つ

・Be Safe

 いつでも歩く、椅子は机の下に入れる

 

③望ましい行動の教示

何が期待される望ましい行動であるのかについて、年度当初や長期休暇明けに開かれる集会、および毎月の各学級の中で教えていく。

期待の観点と場所のマトリクスからなる行動一覧表を玄関や教室などに掲示し、子供が確認できるように環境整備する。

単に教示するだけでなく、望ましい行動が見られた時にはその行動に対して即座にカードを与えて称賛し、その行動を強化する仕組みを設ける。

カードは教職員が常に携行しているほか、あらゆる場所に置かれており、子供同士で授受できるようになっている。学級あるいは学校全体でご褒美(自由時間や映画鑑賞など)がもらえるような仕組みづくりをする。子どもの望ましい行動をしようとする動機づけを高め、行動を強化する。

さらに、カードの内容を集計し、望ましい行動を誰があまりできていないのか、どんな場所で生起していないのか、どんな行動の観点が足りないのかを把握する。これに基づいて次期の活動の重点を定めることができる。

 

この実践のポイントは、

「してはいけないこと」を伝え、守らせるのではなく、

それぞれの場面で「自他にとって望ましい行動とは何か」に気づかせ

そうした行動を獲得したり定着させたりするという、

子どもの成長を引き出す部分である。

 

 

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修復的正義(Restorative Justice)について

修復的的正義とは、問題が起こった際、関係者(被害者、加害者、家族など)が一緒になって解決を模索すること。

加害者は、被害者との対話などを通じて事故の行為を反省し、責任を取る義務がある。被害者もそれを通じて事故の受けた被害について納得がいくまで考察する。加害者が所属するコミュニティは、加害者の責任を取るチャンスと権利を提供する。

 

反対語は、報復的正義。「からかったA・B・Cが悪い。処罰しろ」という考え方。

こうすると、「Dのせいで怒られた。今度は見つからないようにやってやる」などと行動が陰湿になる可能性がある。また、責任を取るチャンスと権利を失ってしまう。

A・B・C・Dをコミュニティに戻すために、修復的正義を用いて

問題行動で壊れた人間関係を修復することが重要である。

 

修復的正義を取り入れた生徒指導の手順

①関係する全ての生徒を、個別に、複数の教員で、同時に事実確認する

②いつ、どこで、誰が、何をしたのかを確認し、食い違いがある場合は徹底して確認する

③全体像が明らかになったら、関係する生徒を集めて全体像を確認し、その後、修復的正義も含めた指導に入る

(事実確認中には指導を入れない。生徒が状況を話さなくなり、全体像が把握できなくなる)

 ↓ より具体的には

❶何が起こったか、その時何を考えていたか聞く

❷その後、何を感じているか聞く

❸他の誰が影響を受けたか考える:親は、クラスの皆は

❹責任を取る権利について説明する:「このことに責任を取るつもりはあるか?」

❺事態を整理するには何が必要か決める:〜に謝る、保護者に説明するよなど

❻今回とは違う方向に進めるために、何ができるか考える

 

 

PBISは、問題行動自体の減少に寄与する。

修復的正義は、問題が生じた子どもへの対応やコミュニティの回復に寄与する。

 

参考

長江・山崎・中村ら(2013)「米国における包括的アプローチに関する一考察ーPBISの視察から」学校教育実践学研究,19