SEL(社会性と情動の学習)

SEL(社会性と情動の学習)

子どもの感情機能を含めた対人関係能力を育む、心理教育プログラムの総称。

その他の取り組み(協同学習やピアサポート)を行う上でも重要である。

 

背景

問題行動の主な原因として、従来、対人関係能力の未熟さが挙げられてきた。

2000年代以降、”キレる”という行動が注目され、感情機能の未熟さが原因に加わった。

=不適切な行動が、感情理解や感情コントロールなどによって引き起こされるということ。

例)すぐに暴力を振るう攻撃的な子どもは、相手の感情理解に歪みが見られ、過剰のコントロールが苦手である。

こうした感情機能の未熟さは、特定の子供だけでなく、多くの子どもに共通する問題となってきている。

したがって、社会的スキルのような行動面だけではなく、行動実行に重要な影響を与える感情面の育成の重要性が求められるようになった。

 

SELとは

学術的定義「自己の捉え方と他者の関わり方を基礎とした、社会性に関するスキルや態度、価値観を身につける学習」(小泉, 2011)

目的:感情の理解やコントロール、他者への思いやりや気遣いの育成、責任ある意思決定、前向きな対人関係の構築、困難な状況の効果的な対処などの力を育成することを目指す。

多くのSELプログラムを取りまとめる機関として、アメリカのCASELがある。

 

SELの核となる、5つの能力

1 自己への気づき

  自分の感情や思考、行動の影響について認識する力

  例)自分自身がイライラしていることに気づく

2 他者への気づき   

  他者の背景を理解し、共感する力

  例)相手の立場だったら、悲しいなと気づく

3 自己のコントロール

  自分の感情や思考、行動をコントロールして適切な行動が取れる力

  例)イライラが爆発しそうだけど、暴力を振るわない

4 対人関係

  異なった個性や集団と、健全で満足できる人間関係を築き維持する力

  例)相手にわかりやすく伝える、積極的に聞く、協力する、トラブルを解決する

5 責任ある意思決定

  行動や関わりについて、他者を尊重した建設的な選択ができる力

  例)安全を考慮する、社会のルールを守る、行動の結果を現実的に評価する

 

これらを伸ばすためのたくさんのプログラムが開発されている。それぞれのプログラムで特色は異なるが、おおむねSELを実践することで得られる効果が明らかになってきている。

 

SELによって得られる効果

1 社会的スキル・感情的スキルの向上

2 向社会的行動の改善

3 問題行動・攻撃行動の減少

4 情緒的問題の改善

5 自己と他者及び学校に対する態度の改善

6 学力の向上;11-17%の増加(Durlakら,2011)

 

このように、子ども個人の能力や心身の発達に直接的な効果を与えるだけではなく、学校全体の健全な環境の確保にも間接的な影響を与える。

 

日本での実践プログラムも開発されてきた。

・セカンドステップ(日本こどものための委員会, 2006)

・SEL-8S(小泉・山田, 2011)

 

例えば、岡山県総社市のSELは、4単元からなる。

1 感情の理解

2 感情コントロール

3 感情の表現&社会的スキル

4 問題解決

これらは、行動実行までの3段階のプロセスに対応させて構成されている。

段階1 入力:相手の感情理解や状況把握を行う  (1に対応)

段階2 処理:収集した情報から適切な行動を考える(2に対応)

段階3 出力:適切な行動を実行する       (3・4に対応)

総社市では研修会を開いて、実践について紹介している。

だれもが行きたくなる学校づくり

(感染防止のため、研修会は一時中止しているようです・・)

 

SELの授業の流れ

導入  :十分な話し合いが行えるような雰囲気づくり。エンカウンターなど

→説明  :学習を行う意味を説明し、やる気を高める

→話し合い  :上手な聞き方のポイント=うめのかさ(後述)

モデリング  :うめのかさのよい使い方を教師が行動と言葉で示す

→ロールプレイ :明確な状況を設定して、使い方を確認する

→振り返り・まとめ :お互いの良い点・改善点について話し合う

 

この流れによって、スキル獲得のサイクルを循環させ、対人関係能力を育む。

そのうち、最も重要なのが「ロールプレイ」である。

理由1 他者の感情を実体験することが、感情の育成に重要。

    頭で理解する(認知的共感)と他者になりきって理解する(情動的共感)がある。

    頭で考えるだけでなく、体を使ってロールプレイする方が感情理解が深まる。

理由2 自ら体験する方が、学習効果が高い。

    人前でやるのが恥ずかしい(中学生など)場合は、二人組で行う。

    もしくは観察役となるだけでも、観察を通して学ぶこと(観察学習)ができる。

 

日常生活への展開

SELの最終目標は、学習内容を日常生活で使えるようになること。

そのための環境を整えることが大切になる。

例1)学習内容を掲示し、普段の生活で思い出させる

例2)学習内容を使っている場面を見たら、賞賛する=行動の強化

例3)帰りの会などにロールプレイを行ってみる

例4)学級だよりを通して保護者にSELについて伝え、家庭でも使えるように促す

 

年に7回以上SELを実施すると安定した効果が示される(MLA調べ)

総社市の実践では、月に1回、年間10回の計画を立てた。

 

何度も繰り返し練習することで、少しずつ成果が現れる。