特別支援教育の視点のいかし方

石隈(1999)の援助サービスのモデル・・・支援対象

一次的支援 すべての子ども

二次的支援 一部の子ども

三次的支援 特定の子ども=特別支援

 

このモデルでは、それぞれの支援が分離して提供されてしまう。

 

一次〜三次の支援は、同時的・構造的に提供されなければならない。

(実際に、先生はそれぞれを同時多発的に行っている)

 

新たな三段階の生徒指導モデル・・・子どもの伸びる姿で見る

一次的生徒指導 自分でできる力を育てる

二次的生徒指導 友達同士で支え合う力を育てる

三次的生徒指導 教師や専門家が中心になって支える

→一次〜三次の子ども像は、積み重ね(連続体)で捉えられる。

支援する子どもを切り分けないため、子どもの取りこぼしがない。

 

この枠組みで指導を見ると・・

1)特別支援の対象と思われる子どもへの対応について

従来、こうした子には、大人の支援を受けて学習する「三次的生徒指導」の視点が多くなる。スケジュール表を使い見通しを持たせ、短いスパンで個別のフィードバックを試みるなど

しかし、係活動など、友達と一緒にできる学習活動はどうか。得意な活動については、二次的・一次的な力を伸ばしていくことも視野に入れるとよい。

 

2)特別支援教育の対象と思われる子がいる学級で

まずはクラス全体に指示を出し(一次)、隣同士やグループで確認させ(二次)、

最後に、最初の指示を特別支援の必要な子のそばで出し、その子の行動を見守る(三次)。

 

このように一次〜三次の階層性で捉えることができる。

特別支援が必要な子がいるクラスでも、

個別の支援(三次的生徒指導)だけでなく、

協同学習やSELを行いながら、クラス集団に取り込まれる場面を増やすことで

友達との関係を活用しやすくし(二次的生徒指導)、

自分でできることを増やしていく(一次的生徒指導)ことが期待できる。

 

 

ここで特別支援教育にあたって重要なのは、領域連動性である。

行動面で多動や不注意のある子は、学習面にも支援が必要であることが多かったり、

対人関係面でニーズのある子も、学習面に偏りがみられることが多かったり・・

 

こうしたそれぞれの側面に関連がみられることを「領域連動性」という。

反対に、生活面で承認欲求を満たすと学業面に効果が見られたり、

学業で評価されることで行動面が落ち着いたり・・

 

領域連動性を活かした取り組みとしてアメリカでは

・PBIS「ポジティブな行動介入と支援」

・RTI「介入に対する反応モデル」

がある。

クラスで協同学習を行い(一次的生徒指導)、協同技能を伸ばしていくことで、

連動的に、それぞれの側面の向上をねらうことができる。

 

 

教師の力量形成について

特別支援教育の手法を学ぶことで「特性への指導の般化」が起こる。

学びのユニバーサルデザイン(UDL)の実践を始める教師は、

一次的生徒指導をすることで、それだけでは達成が果たせない子どもに気づき

個に応じた指導を探るようになり(二次的支援)

さらに達成が厳しい子への方略を工夫するようになる(三次的支援)

このように、三つの支援の支柱に「特別支援教育の視点」を取り入れることで、どの次元の指導にも「多様な個に応じる」という的確性が増す。(髙橋, p64)

 

UDLの研究機関であるCASTは、

UDLの三つの原則を示している。

原則1 取り組みのための多様な方法を提供する。

 興味関心に訴え、やる気が続くような励ましや賞賛を送り、自分の学び方に合わせて教材や活動を選択できる場面をつくるなど

原則2 多様な提示方法を提供する。

 教科書を開くときに、言葉で言う、ページ数を板書する、ページを開いて見せる、電子黒板で提示するなど複数のことを行う。

原則3 行動と表出のための多様な方法を提供する。

 調べたことを発表するときに、口頭発表、実物を示して話す、ポスターや新聞の掲示、歌に乗せて紹介するなど、子どもが選んでできるようにする。

 

これは、教育心理学でいう「適正処遇交互作用」を用いている。

適正処遇交互作用 = 学習者の適性と教授者が提供する処遇との適合を行うこと。

 

言葉の力の高い子供は言葉だけで理解することができる

しかし、言葉だけでは、視覚的な情報処理の方が得意な子にとっては分かりにくい。

反対に、図形や画像だけでは、言葉で学ぶ子には分かりにくい。

 

適正処遇交互作用を発揮させるために、視覚・聴覚・運動感覚の3つを用意するとよい。

運動感覚とは、運動や操作、経験、触覚等を用いた学習のこと。

例:数直線上を歩いて正と負の方向を体感する、

  英語で三人称を使うときにロールプレイをする、など

ただし、これらの学び方をみんなで一斉にやるのではなく、

同じ場面で複数の学習活動が保障される=子ども自身が選ぶことが重要である。

 

自分で学び方を選び、遂行する力を育てることが、主体的な学びにつながる。

漢字を覚えるときにも、

・自分は3回書けばいい   ・私は10回書こう 

・僕は見るだけでいい  など、多様な方法を試せると良い。

 

この方法をすると、

仲間同士で「こうしたら」という方略の提案ができるようになり(二次的支援)

教師もその子に合った合理的配慮を工夫しやすくなる(三次的支援)