ピアサポート

学校で、安心・安全で目標志向的な集団を作り、その中で個を成長させていくことを目指す。

そのために、協同学習、SEL、ピアサポートなど効果の異なる活動を組み合わせて行う。

今日はピアサポートについて。

 

 

ピアサポートの基本的な考え方

1「人は人を実際に支援する中で成長する」という相互援助の人間関係の大切さ

2「人は誰もが成長する力を持っている」「誰もが自分で解決する力を持っている」という人間尊重の精神

に基づいている。

ピアサポートは、悩んだり潰れかかったりしている友達のことをいち早く察知し、自分から「大丈夫?」と声をかけ、手を差し伸べられる子どもたちを育てることをねらいとしている。

思いやりを行動で示せる子どもを育て、思いやりのある学校風土を創造していくための活動である。

 

用語について

ピア:仲間のこと(単に親しい友達を指すだけでなく、交流のある上級生や下級生、つながりのある大人なども含む)

ピアサポート:仲間同士で互いに支え合う活動のこと。

子どもたちが他者への共感性を培ったり、思いやりを行動で示したりする方法を学び、実際に仲間同士で互いに支え合う活動を通して、学校全体の人間関係に「支え合い、助け合う」という支持的な風土を醸成することができる取り組みである。

 

愛着理論から見たピアサポートの意義

現在、貧困や虐待など、子どもを取り巻く環境や養育に関わる状況は厳しくなる一方である。心身ともに厳しい状況に置かれた子どもたちが、信頼関係の基盤となる「愛着」に課題を抱えるのは必然である。

愛着に課題を抱えた子どもたちは、他者への信頼感を持てず、学校生活では、教師との関係のみならず、友人との関係においても苦戦を強いられる。

近年問題となっているコミュニケーション力の低下は、単にそれ自体に課題があるということではなく、他者への信頼感が薄い子どもの中には愛着の課題によってパーソナリティ自体が自己防衛的になり、他者との関わりを回避したり、攻撃的になったりする子供がいるということも押さえておかなければならない。

ピアサポートは、このようなさまざまな課題を抱える子供たちが、自分たちで自分たちの課題を解決していくことを支援するとともに、豊かな情緒交流によって健康で安定的なパーソナリティの形成に寄与する活動でもある。

 

日本ピアサポート学会のピアサポート活動の定義

「子供たちの対人関係能力や自己表現能力等、社会に生きる力が極めて不足している現状を改善するための学校教育活動の一環として、教師の指導・援助のもとに、子供たち相互の人間関係を豊かにするための学習の場を各学校の実態や課題に応じて設定し、そこで得た知識やスキルをもとに、仲間を思いやり、支える実践活動をピアサポート活動と呼ぶ。」

 

 

社会的欲求理論(交流欲求→承認欲求→影響力欲求)から見たピアサポートの意義

1)サポートする側の影響力欲求が充足される。

サポート活動や感謝される経験を通して、「自分も人の役に立てる」という喜びや誰かに必要とされることへの自信といった自己有用感が強化される。その感覚が、社会に貢献したいという思いを育むことにつながる。

2)サポートされる側の交流欲求が満たされる=情緒的交流になるため

また、サポートされて「できたね」「やったね」と認められたりほめたれたりすることで、承認欲求が満たされる。さらに、できることが増えて影響力欲求も満たされることが期待される。

 

困難な養育環境や発達障害等によって愛着に課題を抱えた子どもや、対人関係のスキルの獲得が不十分なまま育った子供が、サポートされる体験を通して、他者から優しく支えてもらうことの安心感や、人と関わることの心地よさを実感し、他者信頼を体得していくことにつながる。

誰かに支えてもらった経験は、「いつか自分もあの人のようになりたい」「自分がしてもらったことを誰かに返したい」という他者貢献の意識や意欲を喚起させることにつながる。

 

サポートされる体験が、子供たちの目に見えない人格的成長を促す。

 

 

ピアサポートプログラムの実施上の留意点

1)指導者側が実施の枠組みをしっかりもつ

どのようなニーズに基づいて、どんな活動をさせたいのか、どの場所、時間、範囲でサポート活動に取り組ませるのか、また、子供たちが考えたプランをどこまで許容するのかなどを明確にする。

2)子供たちに動機づけさせる

人を支援することについて動機づけを持たせることが重要である。自分がこれまで誰かにしてもらって嬉しかったことや感謝したことなどを振り返ってもらうと、さりげない声掛けや行動に支えられていたのを思い出すことができる。ちょっとしたことで元気になったり、勇気が湧いてきたりすることに気づければ、「これなら自分にもできるかもしれない」「自分にできることはなんだろう」と思うことができる。一人ひとりの子供がサポート活動の青写真を描けるようにすることが重要である。

 

ピアサポートプログラムの内容(四段階を円環的に展開していく)

①トレーニング 練習:SELをベースに課題解決・対立解消スキルを学ぶ

  ↓

②プランニング 計画:サポーターとして仲間をどのように支援するか計画する

  ↓

ピアサポート 活動:各自の計画に沿って他者支援の活動を実践する

  ↓

④スーパービジョン 振り返り:うまくいった点をサポーター同士で共有し、課題を考える

 

〜説明〜

①トレーニン

ピアサポートは、受容と共感をベースにしながらトレーニングを積み重ね、課題解決の具体的な方法までをスキルとして体験的に学んでいくことを重要視する。そこで、SELを活用する。

②プランニング

個人ベースで計画を立てること。例:中学2年性が、小学校2年生に九九を教えにいく計画を立てる・・・どんなふうにサポートするのか、先のトレーニングで学んだことと自分の強みを活かして、それぞれが具体的にサポート活動の個人プランを立てる。

ピアサポート

例:縦割り仲良し遠足、中学生が小学生の授業に入る学習サポート、ケンカの仲裁などの活動が展開されている。これまでの学校の教育活動の中でおこなってきた行事や各種活動をピアサポートの視点で捉え直し枠組みを変えて実践することができる。

④スーパービジョン

個人プランに照らして自分のサポート活動を振り返るが、それをグループで実施する。=グループスーパービジョン

   ↓

グループスーパービジョン

1 ウォームアップ

  エネルギー補給ゲーム、よかった点をだしす(うまくいったコツを共有する)

2 うまくいかなかった点や困っていることを出し合う

  守秘義務に気をつけ、課題だけに焦点を絞るように注意する

3 解決したい課題を選択する

  取り上げられなかった課題を抱えている子には、ミーティング後に個別対応する

4 解決策に対する意見をサポーターから引き出す

  解決策をグループで考える、ロールプレイやスキルの練習を通して解決方法を体験的に学ぶ

5 評価とプランの練り直し

  4までの活動を振り返って、サポーターが自分のプランを練り直す

6 まとめ

  指導者が取り組みに対する肯定的評価や価値を伝える

 

指導者は、スーパービジョンを通してスキルを教え、励まし、自分達のやっていることには価値があると伝える。そうしてサポーターの子どもを精神的に支え、課題解決を通して、サポーター同士が互いにサポートし合える大切な場として、仲間意識やチームとしてのまとまりを情勢し、取り組みへの主体性を促進していく。

 

 

参考

中野・森川・高野ら編著(2008)「ピアサポート実践ガイドブックーQ&Aによるピアサポートプログラムのすべて」ほんの森出版