ピアサポート

学校で、安心・安全で目標志向的な集団を作り、その中で個を成長させていくことを目指す。

そのために、協同学習、SEL、ピアサポートなど効果の異なる活動を組み合わせて行う。

今日はピアサポートについて。

 

 

ピアサポートの基本的な考え方

1「人は人を実際に支援する中で成長する」という相互援助の人間関係の大切さ

2「人は誰もが成長する力を持っている」「誰もが自分で解決する力を持っている」という人間尊重の精神

に基づいている。

ピアサポートは、悩んだり潰れかかったりしている友達のことをいち早く察知し、自分から「大丈夫?」と声をかけ、手を差し伸べられる子どもたちを育てることをねらいとしている。

思いやりを行動で示せる子どもを育て、思いやりのある学校風土を創造していくための活動である。

 

用語について

ピア:仲間のこと(単に親しい友達を指すだけでなく、交流のある上級生や下級生、つながりのある大人なども含む)

ピアサポート:仲間同士で互いに支え合う活動のこと。

子どもたちが他者への共感性を培ったり、思いやりを行動で示したりする方法を学び、実際に仲間同士で互いに支え合う活動を通して、学校全体の人間関係に「支え合い、助け合う」という支持的な風土を醸成することができる取り組みである。

 

愛着理論から見たピアサポートの意義

現在、貧困や虐待など、子どもを取り巻く環境や養育に関わる状況は厳しくなる一方である。心身ともに厳しい状況に置かれた子どもたちが、信頼関係の基盤となる「愛着」に課題を抱えるのは必然である。

愛着に課題を抱えた子どもたちは、他者への信頼感を持てず、学校生活では、教師との関係のみならず、友人との関係においても苦戦を強いられる。

近年問題となっているコミュニケーション力の低下は、単にそれ自体に課題があるということではなく、他者への信頼感が薄い子どもの中には愛着の課題によってパーソナリティ自体が自己防衛的になり、他者との関わりを回避したり、攻撃的になったりする子供がいるということも押さえておかなければならない。

ピアサポートは、このようなさまざまな課題を抱える子供たちが、自分たちで自分たちの課題を解決していくことを支援するとともに、豊かな情緒交流によって健康で安定的なパーソナリティの形成に寄与する活動でもある。

 

日本ピアサポート学会のピアサポート活動の定義

「子供たちの対人関係能力や自己表現能力等、社会に生きる力が極めて不足している現状を改善するための学校教育活動の一環として、教師の指導・援助のもとに、子供たち相互の人間関係を豊かにするための学習の場を各学校の実態や課題に応じて設定し、そこで得た知識やスキルをもとに、仲間を思いやり、支える実践活動をピアサポート活動と呼ぶ。」

 

 

社会的欲求理論(交流欲求→承認欲求→影響力欲求)から見たピアサポートの意義

1)サポートする側の影響力欲求が充足される。

サポート活動や感謝される経験を通して、「自分も人の役に立てる」という喜びや誰かに必要とされることへの自信といった自己有用感が強化される。その感覚が、社会に貢献したいという思いを育むことにつながる。

2)サポートされる側の交流欲求が満たされる=情緒的交流になるため

また、サポートされて「できたね」「やったね」と認められたりほめたれたりすることで、承認欲求が満たされる。さらに、できることが増えて影響力欲求も満たされることが期待される。

 

困難な養育環境や発達障害等によって愛着に課題を抱えた子どもや、対人関係のスキルの獲得が不十分なまま育った子供が、サポートされる体験を通して、他者から優しく支えてもらうことの安心感や、人と関わることの心地よさを実感し、他者信頼を体得していくことにつながる。

誰かに支えてもらった経験は、「いつか自分もあの人のようになりたい」「自分がしてもらったことを誰かに返したい」という他者貢献の意識や意欲を喚起させることにつながる。

 

サポートされる体験が、子供たちの目に見えない人格的成長を促す。

 

 

ピアサポートプログラムの実施上の留意点

1)指導者側が実施の枠組みをしっかりもつ

どのようなニーズに基づいて、どんな活動をさせたいのか、どの場所、時間、範囲でサポート活動に取り組ませるのか、また、子供たちが考えたプランをどこまで許容するのかなどを明確にする。

2)子供たちに動機づけさせる

人を支援することについて動機づけを持たせることが重要である。自分がこれまで誰かにしてもらって嬉しかったことや感謝したことなどを振り返ってもらうと、さりげない声掛けや行動に支えられていたのを思い出すことができる。ちょっとしたことで元気になったり、勇気が湧いてきたりすることに気づければ、「これなら自分にもできるかもしれない」「自分にできることはなんだろう」と思うことができる。一人ひとりの子供がサポート活動の青写真を描けるようにすることが重要である。

 

ピアサポートプログラムの内容(四段階を円環的に展開していく)

①トレーニング 練習:SELをベースに課題解決・対立解消スキルを学ぶ

  ↓

②プランニング 計画:サポーターとして仲間をどのように支援するか計画する

  ↓

ピアサポート 活動:各自の計画に沿って他者支援の活動を実践する

  ↓

④スーパービジョン 振り返り:うまくいった点をサポーター同士で共有し、課題を考える

 

〜説明〜

①トレーニン

ピアサポートは、受容と共感をベースにしながらトレーニングを積み重ね、課題解決の具体的な方法までをスキルとして体験的に学んでいくことを重要視する。そこで、SELを活用する。

②プランニング

個人ベースで計画を立てること。例:中学2年性が、小学校2年生に九九を教えにいく計画を立てる・・・どんなふうにサポートするのか、先のトレーニングで学んだことと自分の強みを活かして、それぞれが具体的にサポート活動の個人プランを立てる。

ピアサポート

例:縦割り仲良し遠足、中学生が小学生の授業に入る学習サポート、ケンカの仲裁などの活動が展開されている。これまでの学校の教育活動の中でおこなってきた行事や各種活動をピアサポートの視点で捉え直し枠組みを変えて実践することができる。

④スーパービジョン

個人プランに照らして自分のサポート活動を振り返るが、それをグループで実施する。=グループスーパービジョン

   ↓

グループスーパービジョン

1 ウォームアップ

  エネルギー補給ゲーム、よかった点をだしす(うまくいったコツを共有する)

2 うまくいかなかった点や困っていることを出し合う

  守秘義務に気をつけ、課題だけに焦点を絞るように注意する

3 解決したい課題を選択する

  取り上げられなかった課題を抱えている子には、ミーティング後に個別対応する

4 解決策に対する意見をサポーターから引き出す

  解決策をグループで考える、ロールプレイやスキルの練習を通して解決方法を体験的に学ぶ

5 評価とプランの練り直し

  4までの活動を振り返って、サポーターが自分のプランを練り直す

6 まとめ

  指導者が取り組みに対する肯定的評価や価値を伝える

 

指導者は、スーパービジョンを通してスキルを教え、励まし、自分達のやっていることには価値があると伝える。そうしてサポーターの子どもを精神的に支え、課題解決を通して、サポーター同士が互いにサポートし合える大切な場として、仲間意識やチームとしてのまとまりを情勢し、取り組みへの主体性を促進していく。

 

 

参考

中野・森川・高野ら編著(2008)「ピアサポート実践ガイドブックーQ&Aによるピアサポートプログラムのすべて」ほんの森出版

特別支援教育的な指導の具体例

特別支援教育の視点があれば、

「こんなことは言わなくてもわかるか」という訓育的指導にはならない。

 

不注意な子がいることを前提にすれば

まず集団に対して注意を喚起し、何をすべきかをその子にもわかりやすく明確に指示する(一次的支援)

 

指示が通らず、すぐにおしゃべりしたりちょっかいを出したりする子がいれば

集中維持が弱いと考え、

短いスパンでゴールを示し、即時にフィードバックする(二次的支援)

 

席を立って飛び出してしまう子には

目標を決め、望ましい行動が取れたらシールを貼ったり、

「〜したら〜してもいいよ」等の約束をして、

自分のために頑張れるように支援する(三次的支援)

 

怒りのコントロールが弱い子がいたら、

その子を念頭に置いたSEL(アンガーマネジメント学習など)を事前に行う。

 

ASDで対人関係面に支援ニーズがある子がいたら(三次的支援)

「この子はどんな気持ちだろう」という問いかけは漠然としていて難しいため

他の子の発言を活かしながら、表情のどこを見れば「気持ちの読み方がわかるか」を示す。

また、「こんなとき、あなただったらどうする?」という問いも、想像力が必要になるため

相手の立場に立つ視点取得が未熟であれば難しい。

そのため、イラストよりも、写真や実際の表情の方が理解しやすい子もいる。

対処行動を発言させるだけでなく、ロールプレイングの中で「言われる側」に立って感じてもらう。理屈ではなく体験的に学ぶように組むとよい。

 

さらに、

勝ち負けのある活動をする際には

事前に「負けたらどうするか」を考えさせたり、

イライラした子たちと表情ポスターの前で考え合ったりすることで

一次的支援のSELで学んだことを日常生活で使えるように育てていく(二次的支援)

 

けんかの後の振り返りも、

本人の話を聴きながら絵に書いたり、

感情語彙リストから言葉を選ばせたりすることで

状況認知や感情表現そのものを育てていく(三次的支援)

 

適切な行動を促す方法としても、

ルールやしてはいけないことを表示するよりも、

こういう行動を取ろうというポジティブな行動目標を提示していく。

望ましい行動を具体的に示され、それを称賛されることで、不適切な行動が減っていく。

 

 

特別支援教育の視点に立った指導を行うことで

子どもの自己教育力が高まることが期待される。

 

 

 

参考

髙橋あつ子(2008)「授業のユニバーサルデザイン化ー学習支援のポイント」月刊学校教育相談3月号

特別支援教育の視点のいかし方

石隈(1999)の援助サービスのモデル・・・支援対象

一次的支援 すべての子ども

二次的支援 一部の子ども

三次的支援 特定の子ども=特別支援

 

このモデルでは、それぞれの支援が分離して提供されてしまう。

 

一次〜三次の支援は、同時的・構造的に提供されなければならない。

(実際に、先生はそれぞれを同時多発的に行っている)

 

新たな三段階の生徒指導モデル・・・子どもの伸びる姿で見る

一次的生徒指導 自分でできる力を育てる

二次的生徒指導 友達同士で支え合う力を育てる

三次的生徒指導 教師や専門家が中心になって支える

→一次〜三次の子ども像は、積み重ね(連続体)で捉えられる。

支援する子どもを切り分けないため、子どもの取りこぼしがない。

 

この枠組みで指導を見ると・・

1)特別支援の対象と思われる子どもへの対応について

従来、こうした子には、大人の支援を受けて学習する「三次的生徒指導」の視点が多くなる。スケジュール表を使い見通しを持たせ、短いスパンで個別のフィードバックを試みるなど

しかし、係活動など、友達と一緒にできる学習活動はどうか。得意な活動については、二次的・一次的な力を伸ばしていくことも視野に入れるとよい。

 

2)特別支援教育の対象と思われる子がいる学級で

まずはクラス全体に指示を出し(一次)、隣同士やグループで確認させ(二次)、

最後に、最初の指示を特別支援の必要な子のそばで出し、その子の行動を見守る(三次)。

 

このように一次〜三次の階層性で捉えることができる。

特別支援が必要な子がいるクラスでも、

個別の支援(三次的生徒指導)だけでなく、

協同学習やSELを行いながら、クラス集団に取り込まれる場面を増やすことで

友達との関係を活用しやすくし(二次的生徒指導)、

自分でできることを増やしていく(一次的生徒指導)ことが期待できる。

 

 

ここで特別支援教育にあたって重要なのは、領域連動性である。

行動面で多動や不注意のある子は、学習面にも支援が必要であることが多かったり、

対人関係面でニーズのある子も、学習面に偏りがみられることが多かったり・・

 

こうしたそれぞれの側面に関連がみられることを「領域連動性」という。

反対に、生活面で承認欲求を満たすと学業面に効果が見られたり、

学業で評価されることで行動面が落ち着いたり・・

 

領域連動性を活かした取り組みとしてアメリカでは

・PBIS「ポジティブな行動介入と支援」

・RTI「介入に対する反応モデル」

がある。

クラスで協同学習を行い(一次的生徒指導)、協同技能を伸ばしていくことで、

連動的に、それぞれの側面の向上をねらうことができる。

 

 

教師の力量形成について

特別支援教育の手法を学ぶことで「特性への指導の般化」が起こる。

学びのユニバーサルデザイン(UDL)の実践を始める教師は、

一次的生徒指導をすることで、それだけでは達成が果たせない子どもに気づき

個に応じた指導を探るようになり(二次的支援)

さらに達成が厳しい子への方略を工夫するようになる(三次的支援)

このように、三つの支援の支柱に「特別支援教育の視点」を取り入れることで、どの次元の指導にも「多様な個に応じる」という的確性が増す。(髙橋, p64)

 

UDLの研究機関であるCASTは、

UDLの三つの原則を示している。

原則1 取り組みのための多様な方法を提供する。

 興味関心に訴え、やる気が続くような励ましや賞賛を送り、自分の学び方に合わせて教材や活動を選択できる場面をつくるなど

原則2 多様な提示方法を提供する。

 教科書を開くときに、言葉で言う、ページ数を板書する、ページを開いて見せる、電子黒板で提示するなど複数のことを行う。

原則3 行動と表出のための多様な方法を提供する。

 調べたことを発表するときに、口頭発表、実物を示して話す、ポスターや新聞の掲示、歌に乗せて紹介するなど、子どもが選んでできるようにする。

 

これは、教育心理学でいう「適正処遇交互作用」を用いている。

適正処遇交互作用 = 学習者の適性と教授者が提供する処遇との適合を行うこと。

 

言葉の力の高い子供は言葉だけで理解することができる

しかし、言葉だけでは、視覚的な情報処理の方が得意な子にとっては分かりにくい。

反対に、図形や画像だけでは、言葉で学ぶ子には分かりにくい。

 

適正処遇交互作用を発揮させるために、視覚・聴覚・運動感覚の3つを用意するとよい。

運動感覚とは、運動や操作、経験、触覚等を用いた学習のこと。

例:数直線上を歩いて正と負の方向を体感する、

  英語で三人称を使うときにロールプレイをする、など

ただし、これらの学び方をみんなで一斉にやるのではなく、

同じ場面で複数の学習活動が保障される=子ども自身が選ぶことが重要である。

 

自分で学び方を選び、遂行する力を育てることが、主体的な学びにつながる。

漢字を覚えるときにも、

・自分は3回書けばいい   ・私は10回書こう 

・僕は見るだけでいい  など、多様な方法を試せると良い。

 

この方法をすると、

仲間同士で「こうしたら」という方略の提案ができるようになり(二次的支援)

教師もその子に合った合理的配慮を工夫しやすくなる(三次的支援)

 

協同学習

協同学習の特徴について

 

背景

従来から、子どもたちが主体的に学習に取り組むために、

本時のめあての工夫、板書計画の工夫、発問の工夫などがなされてきた。

平成20年告示の学習指導要領では、新たに「言語活動の充実」が加えられた。

 

言語活動は、学習の協同場面で子どもの相互作用として行われるものである。

 

協同学習のねらいは、

子どもが主体的に学習に取り組むことができる環境を整えることによって

協同場面における「言語活動」を促進すること。

その言語活動を通じて、子どもの主体的な学習の態度を促すことにある。

 

 

協同学習成立のための要件:3つの焦点

1)相互の協力関係などコミュニケーションを促進する仕掛け

 ・自分がやらないと仲間が成功できず、仲間がやらないと自分が成功できないような関係(相互協力関係)

 ・子ども同士が顔をつきあわせて行う相互活動(対面的ー積極的相互作用)

2)個人の責任を意識すること

 ・各メンバーの努力が査定されるなどして、グループの他の仲間の成果に「ただ乗り」できないこと(個人の責任)

3)ソーシャルスキル等のスキル教育 ←これを特に重視する

・協力に必要なスキルを教え、使うように励ますこと(対人機能の適切な奨励・訓練・使用)

 例:話している人を注目しよく聴く、仲間の参加を促す、名前を呼ぶ、自分の気持ちを述べる、他のメンバーの発言をわかりやすく言い換える など

・どうすれば自分達の取り組みがもっと良くなるか、そのためにグループでの活動を振り返る(グループの改善手続き)=教師は子どもたちの取り組みにフィードバックを与える

 

 

協同学習の5つのステップ

①授業の準備やねらいを説明する

・ここに行動上のねらいも示す

 「グループ全員が納得する結論を出しましょう」「解き方をメンバーに説明しましょう」

②協同場面(1回目)

・個人で考えた後、グループで考える

・授業の基礎づくり的な内容を扱う。アイデアを出したり、基礎問題の確認をしたりする

③講義

・短時間で、説明しすぎない

④協同場面(2回目)

・やや難しめの問題に挑戦する。

⑤授業のまとめ

・学習内容がわかったか振り返る時間ではなく、

 行動上のねらいが達成できたか、学ぶ集団として自分たちはどうだったか、

 何が集団を良い方向へ導いたか、成長するために何が必要なのかを振り返らせる

 

<ポイント>

・まず子ども同士でペアやグループのメンバー構成について確認する。

・個人思考の場面では、ノートなどを見直させる。考えのメモを作成してもよい。

・グループ思考の場面では、自分の考えたことについてメンバーに説明を行う。

協同学習では、個人思考とグループ思考をしっかり分けることが重要である。

 

協同学習の手法いろいろ

◯シンク=ペア=シェア (バークレイ, 2009)

◯ジグソー学習  (沖林, 2010)

◯経験の振り返り

 

参考

バークレイ(2009)「協同学習の技法ー大学教育の手引き」安永訳

沖林(2010)「協同学習」森・青木・淵上編

 

SEL(社会性と情動の学習)

SEL(社会性と情動の学習)

子どもの感情機能を含めた対人関係能力を育む、心理教育プログラムの総称。

その他の取り組み(協同学習やピアサポート)を行う上でも重要である。

 

背景

問題行動の主な原因として、従来、対人関係能力の未熟さが挙げられてきた。

2000年代以降、”キレる”という行動が注目され、感情機能の未熟さが原因に加わった。

=不適切な行動が、感情理解や感情コントロールなどによって引き起こされるということ。

例)すぐに暴力を振るう攻撃的な子どもは、相手の感情理解に歪みが見られ、過剰のコントロールが苦手である。

こうした感情機能の未熟さは、特定の子供だけでなく、多くの子どもに共通する問題となってきている。

したがって、社会的スキルのような行動面だけではなく、行動実行に重要な影響を与える感情面の育成の重要性が求められるようになった。

 

SELとは

学術的定義「自己の捉え方と他者の関わり方を基礎とした、社会性に関するスキルや態度、価値観を身につける学習」(小泉, 2011)

目的:感情の理解やコントロール、他者への思いやりや気遣いの育成、責任ある意思決定、前向きな対人関係の構築、困難な状況の効果的な対処などの力を育成することを目指す。

多くのSELプログラムを取りまとめる機関として、アメリカのCASELがある。

 

SELの核となる、5つの能力

1 自己への気づき

  自分の感情や思考、行動の影響について認識する力

  例)自分自身がイライラしていることに気づく

2 他者への気づき   

  他者の背景を理解し、共感する力

  例)相手の立場だったら、悲しいなと気づく

3 自己のコントロール

  自分の感情や思考、行動をコントロールして適切な行動が取れる力

  例)イライラが爆発しそうだけど、暴力を振るわない

4 対人関係

  異なった個性や集団と、健全で満足できる人間関係を築き維持する力

  例)相手にわかりやすく伝える、積極的に聞く、協力する、トラブルを解決する

5 責任ある意思決定

  行動や関わりについて、他者を尊重した建設的な選択ができる力

  例)安全を考慮する、社会のルールを守る、行動の結果を現実的に評価する

 

これらを伸ばすためのたくさんのプログラムが開発されている。それぞれのプログラムで特色は異なるが、おおむねSELを実践することで得られる効果が明らかになってきている。

 

SELによって得られる効果

1 社会的スキル・感情的スキルの向上

2 向社会的行動の改善

3 問題行動・攻撃行動の減少

4 情緒的問題の改善

5 自己と他者及び学校に対する態度の改善

6 学力の向上;11-17%の増加(Durlakら,2011)

 

このように、子ども個人の能力や心身の発達に直接的な効果を与えるだけではなく、学校全体の健全な環境の確保にも間接的な影響を与える。

 

日本での実践プログラムも開発されてきた。

・セカンドステップ(日本こどものための委員会, 2006)

・SEL-8S(小泉・山田, 2011)

 

例えば、岡山県総社市のSELは、4単元からなる。

1 感情の理解

2 感情コントロール

3 感情の表現&社会的スキル

4 問題解決

これらは、行動実行までの3段階のプロセスに対応させて構成されている。

段階1 入力:相手の感情理解や状況把握を行う  (1に対応)

段階2 処理:収集した情報から適切な行動を考える(2に対応)

段階3 出力:適切な行動を実行する       (3・4に対応)

総社市では研修会を開いて、実践について紹介している。

だれもが行きたくなる学校づくり

(感染防止のため、研修会は一時中止しているようです・・)

 

SELの授業の流れ

導入  :十分な話し合いが行えるような雰囲気づくり。エンカウンターなど

→説明  :学習を行う意味を説明し、やる気を高める

→話し合い  :上手な聞き方のポイント=うめのかさ(後述)

モデリング  :うめのかさのよい使い方を教師が行動と言葉で示す

→ロールプレイ :明確な状況を設定して、使い方を確認する

→振り返り・まとめ :お互いの良い点・改善点について話し合う

 

この流れによって、スキル獲得のサイクルを循環させ、対人関係能力を育む。

そのうち、最も重要なのが「ロールプレイ」である。

理由1 他者の感情を実体験することが、感情の育成に重要。

    頭で理解する(認知的共感)と他者になりきって理解する(情動的共感)がある。

    頭で考えるだけでなく、体を使ってロールプレイする方が感情理解が深まる。

理由2 自ら体験する方が、学習効果が高い。

    人前でやるのが恥ずかしい(中学生など)場合は、二人組で行う。

    もしくは観察役となるだけでも、観察を通して学ぶこと(観察学習)ができる。

 

日常生活への展開

SELの最終目標は、学習内容を日常生活で使えるようになること。

そのための環境を整えることが大切になる。

例1)学習内容を掲示し、普段の生活で思い出させる

例2)学習内容を使っている場面を見たら、賞賛する=行動の強化

例3)帰りの会などにロールプレイを行ってみる

例4)学級だよりを通して保護者にSELについて伝え、家庭でも使えるように促す

 

年に7回以上SELを実施すると安定した効果が示される(MLA調べ)

総社市の実践では、月に1回、年間10回の計画を立てた。

 

何度も繰り返し練習することで、少しずつ成果が現れる。

 

学級経営〜集団として機能させるために〜2

目次

1 学級を「集団」として機能させるために何が必要か。

2 どのように進めていけばよいのか。 →ここから

 

集団づくりを難しくしている背景

核家族化、少子化、地域など、子どもを取り巻く環境や遊びの変化などによって、今の子供は多様な人々との関わりを持つ機会を奪われている。それと同時に、他者と関わる力が落ち、他者と関わることで得られる感情体験(自己肯定感や自己効力感など)も少なくなっている。

 

集団づくりの要件として用いられる理論

三隅(1966):PM理論におけるリーダーシップ行動は、集団に対してどのような働きかけをすべきかの原則を示している。

P=パフォーマンス:集団目標達成行動 ①集団を機能させる仕組みづくり

M=メンテナンス :集団維持行動  ②人間関係づくり

 

集団にいる時の子供たちの懸念

「受け入れてもらえるかなぁ」人間関係づくりが不足

「みんな何をしようとしているのかなぁ」集団目標が不足

「こんなこと言ったりやったりして大丈夫かなぁ」集団規範が不足

「この中で自分は何をすればいいのかなぁ」集団における役割が定まっていない

先述した背景から、今までと同じやり方では、集団の良さを引き出せなくなっている。そのため、これまで以上に丁寧に集団づくりをしていくことが重要である。

 

 

集団づくりの具体的な進め方は、3つに整理される。

その1 関わりの機会を増やす:社会的欲求、成功体験

その2 関わり方を学ばせる:SEL

その3 関わる仕組みを作る:協同学習

 

 

具体的な進め方<その1>「関わりの機会を増やす:量・質」

 

他者との関わりが乏しい今日では、関わることの良さを体験できていないことが多い。年度当初の教師の仕掛けだけでは、機会として不十分となっている。なので、関わりの機会を設けることが重要である。

実践研究:広島県立教育センター(2007)

方法は各学級が取り組みやすいような方法で行っている。

たとえば「朝のミニ会話」は10分間ペアで会話の機会を設ける取り組み。テーマは、「最近楽しかったこと」などの気軽なものからはじめ、徐々に「頑張ったこと」のような自分自身のことを語るテーマに移行している。

小学校:係活動の自由化(に伴う話し合い)、グループ学習、今日のベストフレンド

中学校:ランチトーキング、ペアスピーチ、グループ面接

 

関わりの機会を増やすためのポイントが2つある。

①社会的欲求の階層性を考慮する

以前述べた社会的欲求理論には、3つの階層(順序)性が想定されている。

・交流欲求  誰かと繋がって居場所を作り安心感を得たい・・これが基盤となる

  ↓

・承認欲求  周りの人から認められることで自己肯定感を得たい

  ↓

・影響力欲求 周りの人に何らかの影響を及ぼすことで自己効力感を得たい

 

同じ取り組みであっても、どの欲求を満たす活動になっているのか重点を意識し、順次その重点を移行させていくことが大切になる。

 

②関わりを通した成功体験を積ませる

誰かと関わることで楽しかった、何かをやり遂げた(達成感)、他の人の役に立った(自己効力感)を体験させること。

成功体験がないと、関わることで恥ずかしい思いをした、嫌だった、気を遣って煩わしいだけだ、という思いが先立ってしまう。

したがって、まずは、「関わって楽しかった」と思えるような取り組みを導入し、他者と関わることの抵抗感を低くすることが大切。その上で、誰かと共同して成し遂げる(達成感)、誰かの役に立つ(自己効力感)を体感させられるような取り組みへつないでいく。

これらを通して、社会的欲求の3つを満たすような経験を積ませていく。

 

 

具体的な進め方 <その2>「関わり方を学ばせる:スキル」

*社会性と情動の学習(SEL:social and emotional learning)を行う。

これによって、他者と関わる行動だけでなく、情動の理解・表出・調整を学ばせることができる。

 

具体的な進め方 <その3>「関わる仕組みを作る:場の提供」

*協同学習(授業における集団活動)を行う。

これによって、集団を機能させる仕組み=「目標、規範、役割を明確にする」を効果的に進めることができる。

 

2と3は長くなるので別で解説する。

 

学級経営〜集団として機能させるために〜

目次

1 学級を「集団」として機能させるために何が必要か。

2 どのように進めていけばよいのか。

 

0 そもそも

集合と集団は異なる。集まっている人の間に関わり合いがあるかどうか、単なる人の集合を集団として機能させていくことが必要である。

今の学校における子どもの現状を見ると、改めて集団づくりがうまくいっているのかを問い直してみる必要があるように思う。

不登校、いじめの多発だけではない。

お互いに関わりを避ける傾向、集団の中での責任感や規範意識の欠如、

リーダーの不在、やる気のなさ・・。

これらは、学級や学校が集団としてうまく機能していないことを物語っている(神山,P32)

 

生徒指導の目的をおさらい。

一次的生徒指導 自分でできる力を育てる

二次的生徒指導 友達同士で支え合う力を育てる

三次的生徒指導 ・・

この一次・二次の目的をかなえる基礎が「学級経営=集団づくり」である。

 

1 集団づくりの要件とは。

多くの先生の集団づくりの実践を要約すると、自然と二つに集約される

①人間関係づくり:情緒的な関わり

②集団を機能させる仕組みづくり:活動上の関わり

 

①について、特に若手の先生は、仲間づくりを重視する。学級開きに子ども同士が自己紹介する機会を設けたり、お互いが親しくなれるような活動をしたり。年間を通して、学校・学年行事を活かしながら行われている。

②について、学級目標を掲げたり、学級生活や授業が円滑に進められるようにルールを決めたり、係や委員会を決めたりすることで実践される。重要なのは、「学級」が何のためにあり、自分がそこで何を求められているのかをはっきり示すこと。

 

②についての補足。

新しい環境に置かれた時、人はどのように振る舞ってよいかわからず不安になる。不安な環境(=集合状態)にいる時は、疑心暗鬼になり、当たり障りがないように振る舞い、居心地が悪いのでその場を何とかやり過ごし、早くそこから抜け出したくなる。

集団の「目標」や「規範」、個々のメンバーの役割が明確であれば、ここは集団や他者に貢献する行動をとることができる。=行動を通して個の力を高めていける。

そこで安心して経ち振る舞うことができると、集団に対して積極的に関わっていくことができる。

 

・・・目標、規範、役割は、一人一人が安心して過ごすことができるようにするための指針として重要なんだな。けど、これらは当たり前のように先生たちがしていることに思える。

 

2へ