それとなく人を動かすナッジというもの

ナッジについて。

セイラー教授が2017年にナッジ・行動経済学関連でノーベル経済学賞を受賞しました。

 

はじめにーナッジの重要性(前回の続き)

行動科学は,人間行動の普遍性に関する知識を集積し,その考え方を理論化してきた。

しかし近年の行動経済学の考え方によれば,私たちはけっして「合理的な人間」ではなく,認知バイアスから不合理な意思決定をして,理屈通りに行動しない

そこで,行動変容に対する個人の意思決定が時として,合理的に行われない場合があることを前提に, ちょっとした “ 工夫 ” と “ 仕組み ” で,個人がより良い選択をできるように支援する「ナッジ」(nudge) という行動経済学の政策アプローチが注目されている。

ナッジとは,軽く肘でつつく,押すという英語の意味だが,まさしく個人の行動を強制することなく,人が取る行動について複数の選択肢がある場合,社会や自分にとってより望ましい選択肢を本人が意識できるような仕掛けを導入する方法である。

英国や米国では,政府主導によるナッジの政策的取り組みが普及しており,小児肥満の改善や低所得者層における受診率向上などの医療問題の解決に役立っている。

わが国でも最近,ナッジを活用して,生涯現役社会の実現に向けた予防・健康に向けた誘因(incentive)(生活習慣病対策の強化や認知症予防に向けた国民キャンペーン,企業の健康投資の拡大) や社会的・公共的な意識・態度を喚起する態度変容型の計画などの政策形成が始まりつつある。

国や自治体など大規模なレベルでのナッジの展開は,行動変容を促す健康教育・保健指導のためのソーシャルマーケティングの考え方を取り入れながら,コミュニティ組織化(community organization)への社会活動(エンパワーメント, アドボカシー,マスメディア・コミュニケーション) へとさらに発展していくことが期待されている。

 

ナッジとは、行動科学の知見(行動インサイト)の活用により、「人々が自分自身にとってより良い選択を自発的に取れるように手助けする政策手法」である。

人々が選択し、意思決定する際の環境をデザインし、それにより行動をもデザインする。

欧米をはじめ世界の200を超える組織が、あらゆる政策領域(SDGs & Beyond)に行動インサイトを活用している。
• 国内では、2018年に初めて成長戦略や骨太方針にナッジの活用を環境省事業とともに位置付けた(2019年の成長戦略、骨太方針、統合イノベ戦略、AI戦略等にも位置付け)

 

選択の自由を残し、費用対効果の高いことを特徴とする。 

この点(選択の自由は残す=規制・強制ではないところ)が、自由の国アメリカ等で受け入れられた理由の1つとされている(環境省資料から)

 

ナッジには2つの種類がある。

・特定の目的を達成したいという気持ちを持っている人の行動を促すもの

・そのような理想的な目的を持っていない人に理想を持たせて行動させるもの

前者は比較的、計画に関する介入の妥当性が説明しやすい

後者は倫理的な配慮の検討をより必要とする

 

良いナッジとは、自分自身にとってより良い選択ができるように人々を手助けするもの。

一方で、賢い意思決定や向社会的行動を難しくするような悪いナッジをスラッジと言う。

 

ナッジについて、多くはまだ実証実験の段階であり、その効果を明らかにした上で施策にまで落とし込んでいる事例は多くない。

人々にどのようなナッジを与えるか。ナッジの評価は人々を助けるか損害を与えるかという効果に左右される。

市民にとって良いのか、社会にとって良いのか、それが両立できないときは何を優先すべきか、何をもって良い悪いとすべきか・・・

効果をきちんと評価し、エビデンスに基づく計画を立案して透明性を高め、説明責任を果たすことが重要である。

 

したがって、ナッジの活用に携わる人は、法令の定めるところに加え、高い倫理性が求められる。

 

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選択アーキテクチャーとは

人々が選択する際の「環境」のこと。

「自発的な意思決定のための環境をどうデザインするか」をテーマとする。

人が意思決定し、選択する際の「環境」をデザインし、それにより「行動」をデザインする。 

 

はじめにー選択アーキテクチャーの必要性

人間の間違った行動や考え方のクセが、生活の質を落としてしまっている。

バイアス、惰性、楽観性、損失回避性、不注意、受け身、周囲に同調、という性質があるため、判断が難しいもの、未経験のもの、すぐにフィードバックが得られないもの(選択の結果が遅れて現れるもの)に関しては、ナッジが役に立つ。

そして、判断を下さなければならない時や、選択が強いられる様々な場面で、良い結果を得るようにするために、良い選択アーキテクチャーを設計する必要がある。

 

良い選択アーキテクチャーの原則は6つ。

①iNcentives (インセンティブ)

 行動の傾向や原因を分析し、偏っていたら修正してくれる。

②Understand mappings (マッピングを理解する)

 ある情報を、自分の知っている情報に置き換えて理解することにより、納得のいく商品やサービスを受けられる。情報が開示されていることが大切。

③Defaults (デフォルト)

 選択肢が、あらかじめ、標準として用意されていて、選択の労力、抵抗力が少なくて済むようにする。

④Give feedback (フィードバックを与える)

 操作が正しいか、ミスしているか、伝えてくれる。

⑤Expect error (エラーを予期する)

 エラーしたら、警告サインやアラームで知らせてくれる。

⑥Structure complex choices (複雑な選択を体系化する)

 利用状況や傾向に合った商品やサービスを勧めてくれる。

 

例えば、アメリカにおいて、

退職準備の年金プランの改善すべきところとは、

インセンティブ:企業は従業員にとって最大の利益になるよう行動する義務を法制定する。運用資産の管理について専門家の助けが得られるようにする。

マッピングと、④フィードバック:退職貯蓄の目標達成状況を視覚的に表示する。

③デフォルト:企業が勧める年金プランは、保守的な投資をデフォルトにしている。しかし、リターンが非常に少ない。加入者は適切なリスクを選べるようにする。

⑤エラーを予期する:面倒くさがりな人には年金プランを自動加入方式にする。また、ほかのプランを追加して資産配分を調整できるようにする。

⑥複雑な選択を体系化;複数のプランの中から、加入者のニーズにあったプランを選べるようにする。

 

ほかに、貯蓄、投資、借金(ローン)、社会保障制度、医療、臓器提供、環境保護、婚姻制度について、どのようなときに、ナッジがあるとよいのか提案しています。

 

この本とそのレビューから

引用元

実践 行動経済学 | リチャード・セイラー, キャス・サンスティーン, 遠藤 真美 |本 | 通販 | Amazon